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東京地方裁判所 平成12年(行ウ)74号 判決 2000年12月21日

原告 小笠原忠彦

被告 東京国税局長 福田進

右指定代理人 田中芳樹

他3名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

甲府税務署長が、平成九年五月三〇日付けでした、国際貨物有限会社を債務者、原告を第三債務者とする滞納国税に係る債権の差押処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、甲府税務署長が国税の滞納処分として行った債権の差押処分が違法であるとして、第三債務者である原告が、右差押処分の取消しを求めている事案である。

一  前提となる事実(括弧内に証拠等を掲記しない事実は、当事者間に争いがない。)

1  国際貨物有限会社(以下「国際貨物」という。)は、弁護士である原告に対し、平成九年五月二一日、自己破産の申立て及びこれに伴う事務処理等について依頼し、原告はこれを受任した(以下「本件委任契約」という。《証拠省略》)。

2(一)  原告は、本件委任契約に基づき、国際貨物の取引先である佐川急便株式会社から、国際貨物の売掛債権六一三万九〇四二円の弁済を受け、平成九年五月二三日、原告の預り金口座(以下「本件口座」という。)に預け入れた(《証拠省略》)。

(二) 原告は、同じく国際貨物の取引先である田中運輸機工株式会社から、国際貨物の売掛債権八八〇万九〇二〇円の弁済を受け、平成九年五月二六日、本件口座に預け入れた(《証拠省略》)。

3  甲府税務署長は、平成九年五月三〇日付けで、国際貨物の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、国際貨物の原告に対する本件口座預入金一四九四万八〇六二円(以下「本件預入金」という。)の引渡請求権(以下「本件債権」という。)を被差押債権とする差押処分(以下「本件差押処分」という。)を行い、原告に対して差押通知書を送達した。本件差押処分における被差押債権の表示は、別紙のとおりであった(《証拠省略》)。

4  原告は、甲府税務署長に対し、平成九年七月三〇日、本件差押処分について異議を申し立てたが、被告は、同年一〇月二四日付けで、右申立てを却下する決定をした。

5  原告は、国税不服審判所長に対し、平成九年一一月二七日、本件差押処分の取消しを求めて審査請求をしたが、国税不服審判所長は、同一〇年一〇月二一日付けで、右審査請求を却下する裁決をした(《証拠省略》)。

6  被告は、甲府税務署長から、平成一〇年一月二八日、本件滞納国税の徴収の引継ぎを受けた(弁論の全趣旨)。

二  争点

(本案前)

1 原告に原告適格が認められるかどうか(第三債務者である原告に本件差押処分の取消しを求める法律上の利益があるかどうか)

(本案)

2 本件差押処分が被差押債権の特定を欠くものかどうか(特定を欠くとした場合、本件差押処分が違法となるかどうか)

3 本件債権の存否(本件債権が存在しないとした場合、本件差押処分が違法となるかどうか)

4 本件差押処分にかかる差押調書謄本が滞納者である国際貨物に交付されていないことにより、本件差押処分が違法となるかどうか

5 本件差押処分が権利の濫用として違法となるかどうか

三  争点に対する当事者の主張

1  争点1(原告に本件差押処分の取消しを求める法律上の利益があるかどうか)について

(原告の主張)

(一) 被差押債権の特定及び帰属

差押処分において、被差押債権の特定が不十分である場合、又は債権の帰属に争いがある場合、第三債務者には、いずれの債権が差し押さえられているか不明であり、いずれの抗弁が対抗できるかの判断にも困難が生じるから、このような場合には、第三債務者に差押処分の取消しを求める法律上の利益がある。

本件差押処分においては、被差押債権である本件債権の特定及び帰属に争いがあり、原告には、本件債権のうちどの範囲の債権が差し押さえられているか分からないし、どのような抗弁が対抗できるかを判断することもできない。

(二) 原告の職務上の利益

原告は、本件委任契約に基づいて国際貨物の破産申立てを受任した弁護士であるところ、本件差押処分によって、本件預入金の中から破産予納金その他の費用を支払うことができなくなったため、その職務上の利益を侵害され、さらには国際貨物から債務不履行の責任を問われる危険があるから、原告は、本件差押処分により、自己の法律上の利益を侵害されている。

(三) 二重払いの危険

本件差押処分は、滞納者である国際貨物に対する差押調書謄本の交付を欠くものであり、第三債務者である原告が差押債権者に弁済しても、弁済が無効となる可能性があり、二重払いを強いられる危険がある。

(四) 滞納者による不服申立ての可能性

国際貨物は、本件委任契約において、本件預入金を含む債権を回収した原資から、裁判所への破産予納金、弁護士の報酬、その他の費用を支出し、残余の金員は、破産管財人に引き渡されることを承諾しており、国際貨物に対する預り金の返還はあり得ないから、本件債権が差し押さえられても、国際貨物が何らかの不服申立てをすることは期待できない。そして、破産申立てを予定している国際貨物が、別途何らかの不服申立てを行う費用を支出することもできない。したがって、本件においては、第三債務者である原告が、自ら差押えの効力を争う必要がある。

(五) 民事執行法一四五条五項は、差押命令に対する執行抗告を認めており、原告は、右(一)ないし(四)のとおり、本件差押処分について直接的かつ具体的な利害関係を有するから、原告には、本件差押処分の取消しを求める法律上の利益があり、原告適格を有するというべきである。

(被告の主張)

(一) 被差押債権の特定及び帰属

税務署長等が、滞納国税を徴収するために、国税徴収法の規定により滞納者の第三債務者に対する債権を差し押さえたときは、国は被差押債権の取立権を取得し(国税徴収法六七条)、この取立権に基づいて被差押債権の取立てに必要な滞納者の有する権利を行使することができる。

したがって、第三債務者が債務の履行期限までにその履行を行わない場合、第三債務者に履行の請求をするなどの債権の取立てに必要な措置をとり、なお第三債務者が履行の請求に応じないときは、その第三債務者に対し、民事訴訟法の定める手続きに従って債務名義を取得した上で一般私債権と同様の強制執行手続を行うことになる。これに対して、第三債務者は差押え前から滞納者に対して有するすべての異議、抗弁をもって差押債権者である国に対抗することができる。

本件においても、原告は、本件差押処分に基づいて取立権を取得した徴収職員の取立てに際しては、本件差押処分の前から国際貨物に対して有しているすべての異議、抗弁を国に対抗できるのであり、このことは、右の被差押債権の特定や帰属についても同様であるから、原告の第三債務者としての地位及び被差押債権の内容には何ら変動はない。

したがって、原告は、本件差押処分によって、何の不利益も被らない。

(二) 原告の職務上の不利益

原告の主張する職務上の不利益は、本件委任契約において、原告が、回収した資産の中から滞納者の破産予納金等の費用を確保する旨約定したことに基づく私人間の契約上の効果であって、本件差押処分の効果ではない。

(三) 二重払いの危険

国税徴収法六二条三項によると、債権差押えの効力は差押通知書が第三債務者に送達されたときに生じる。本件差押処分においては、第三債務者である原告に対して債権差押通知書が送達されているから、原告が、取立権を有する差押債権者の取立てに応じて弁済すれば、これは有効な弁済であり、原告が二重払いの危険を負担することはない。

(四) 滞納者による不服申立ての可能性

滞納者が本件差押処分について不服申立て等をすることが事実上期待できないからといって、第三債務者である原告に法律上の利益が認められることになるものではない。

(五) 行政事件訴訟においては、処分の取消しの訴えは、当該処分の取消しを求める法律上の利益を有する者に限り提起することができると定められているところ(行政事件訴訟法九条)、右(一)ないし(四)によると、原告の主張する利害関係は、いずれも第三債務者である原告に本件差押処分の取消しを求める法律上の利益があることの根拠とならない。また、民事執行法一四五条五項が執行抗告を認めているからといって、原告に法律上の利益が認められるものではない。

2  争点2(本件差押処分が被差押債権の特定を欠くものかどうか(特定を欠くとした場合、本件差押処分が違法となるかどうか))について

(原告の主張)

債権差押通知書には「差し押さえる債権の種類及び額」を記載しなければならないところ(国税徴収法施行令二七条三号)、これは被差押債権を特定することによって、第三債務者に対して、どの債権がどの範囲で差し押さえられているのかを明らかにする趣旨であり、この程度の特定を欠く債権の差押えは違法である。

本件差押処分における被差押債権の表示は、別紙記載のとおりであり、「委任事務」の内容が明確でない。委任の趣旨によって、金額はもちろん弁済の時期や差し引かれるべき費用額等が異なるから、第三債務者である原告は被差押債権を特定することができず、費用の支出に支障をきたす。

したがって、本件差押処分は被差押債権の特定を欠く違法なものである。

(被告の主張)

債権の差押えに当たっては、第三債務者が被差押債権を確知できる程度に表示されていれば、その特定に問題はなく、差押えは有効である。

本件差押処分における、被差押債権は、別紙記載のとおりであり、「委任事務」は本件委任契約に基づくものであるところ、本件差押処分は、原告が委任事務を処理するに当たり受け取った金員の全額の請求権を差し押さえたものであり、右金員から破産申立てに伴う裁判所への予納費用等を控除した残額の返還請求権ないし引渡請求権を差し押さえたものではない。このことは、本件差押処分において、被差押債権として「滞納者(委任者)が、次の理由により債務者(受任者)に対して有する金一四九四万八〇六二円の引渡請求権」。と記載されていることからも明らかである。したがって、本件債権は、差押処分の被差押債権として、特定を欠くものではない。

3  争点3(本件債権の存否(本件債権が存在しないとした場合、本件差押処分が違法となるかどうか))について

(原告の主張)

被告は、裁判所への予納費用等を控除した残額を差し押さえたものではなく、本件差押時に本件預入金全額についての返還請求権が既に発生しているとの前提の下に、その返還請求権を差し押さえたと主張している。しかし、本件預入金は、弁護士報酬、裁判所への予納費用等を支出した残額について、破産管財人に引き渡されることを前提として、原告が預り保管するものであるから、滞納者が原告を解任し、破産申立てを撤回しない限り、預り金返還請求権は発生しない。

したがって、本件差押処分はその時点で存在しない債権を被差押債権とするものであり、違法である。

(被告の主張)

原告が本件債権に係る預り金について国際貨物から贈与を受けた事実はなく、国際貨物が、本件委任契約の受任者たる原告に対し、本件差押処分時において民法六四六条、六五六条に基づき、右預り金の引渡請求権を有することは明らかである。

また、仮に本件債権が不存在であったとしても、右1(被告の主張)(一)のとおり、原告は、そのことを取立訴訟において抗弁として主張することができるのであるから、本件差押処分が違法となるものではない。

4  争点4(本件差押処分にかかる差押調書謄本が滞納者である国際貨物に交付されていないことにより、本件差押処分が違法となるかどうか)について

(原告の主張)

本件差押処分については、滞納者である国際貨物に対する差押調書謄本の交付が行われておらず、国税徴収法五四条二号に違反する。

(被告の主張)

前記1(被告の主張)(三)のとおり、本件差押処分の効力は、第三債務者である原告に対する差押通知書の送達をもって発生しているから、原告の主張によっても本件差押処分の効力に影響はない。また、滞納者に対する差押調書謄本の交付の有無は、第三債務者である原告の法律上の利益に関係がないから、原告の主張は、行政事件訴訟法一〇条一項に照らし、失当である。

5  争点5(本件差押処分が権利の濫用として違法となるかどうか)について

(原告の主張)

甲府税務署長は、事前の調査により国際貨物の売掛先や経営状況を知悉し、いつでも差押えができる状態であったにもかかわらずこれを怠り、原告の債権の回収及び弁護士としての活動に対する嫌がらせのために、本件差押処分をしたものであるから、本件差押処分は権利の濫用に当たり、違法である。

(被告の主張)

甲府税務署長が滞納者に対する滞納処分による差押えをすべき時期について法的な制限はなく、かえって、甲府税務署長は、本件差押処分以前において、滞納者の滞納国税について取締役であった成島輝雄による納税保証及び同人所有の不動産に対する抵当権設定等による担保提供を受け、国税徴収法一五一条の滞納処分による財産の換価の猶予などをしていた。そして、甲府税務署長は、平成九年五月二七日の国際貨物の不渡り事故発生の情報を入手した後、滞納処分による差押えに着手したのであり、原告が主張するような嫌がらせの意図など全くなかった。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

国税徴収法は、徴収職員による滞納者の債権差押処分を認めており、右処分の内容は、滞納者に対し債権の取立てその他の処分を禁じるとともに、第三債務者に対しその債務の履行を禁じるというものである(同法六二条二項)。被告は、このような効果が生じるとしても、第三債務者である原告は、本件差押処分前に債務者である国際貨物との間で生じたすべての事由をもって、差押債権者である国に対抗し得るから、その法的地位に変動がないと主張する。

しかし、第三債務者は、本来自由になし得る債務者への弁済を一方的に禁じられるのであるから、この点のみをとらえても法的地位に変動があると考えられるし、もともと弁済時までに生じるすべての事由をもって債務者に対抗し得る法的地位を有していたにもかかわらず、右弁済禁止の派生的効果として差押時点以降に債務者との間で生じた事由は一切主張し得ないという私法上重大な不利益を受けることとなるのであるから、その法的地位に変動があるというほかない。そうすると、第三債務者は、一般に、差押処分の違法性について判断を求めることにつき直接的な利益を有するものであり、右利益は法的に保護される利益として行政事件訴訟法九条にいう法律上の利益に当たるというべきである。このことは、類似の法的手続きである民事執行法による債権差押手続においても第三債務者が執行抗告を提起し得るとの解釈が定着していることからしても明らかである。

したがって、原告は、第三債務者として、本件差押処分の取消しを求める原告適格を有するというべきである。

二  争点2ないし5について

1  被差押債権の特定(争点2)

前記第二(事案の概要)一(前提となる事実)3のとおり、本件差押処分における被差押債権の表示は、別紙記載のとおりであるところ、その具体的な記載は、

「滞納者(委任者)が、次の理由により債務者(受任者)に対して有する金一四九四万八〇六二円の引渡請求権。

債務者(受任者)は、滞納者(委任者)からの委任事務に当たり、下記取引先から各々の売掛債権を回収し、債務者名義の預金口座(株式会社富士銀行甲府支店普通預金 口座番号《省略》)に預け入れている。

記(以下省略)」

となっている。

前記第二(事案の概要)一(前提となる事実)1ないし3の事実及び右記載によると、本件差押処分の被差押債権の表示は、本件債権、すなわち、国際貨物の原告に対する債権であって、かつ、原告が国際貨物の委任に基づいて回収した本件預入金の全部(合計一四九四万八〇六二円)の引渡請求権を意味するものであると認められ、特定を欠くものとはいえない。もっとも、右記載のみでは、被差押債権が本件差押処分時に現在するものか否かやその債権額が確定しているものか否かにつき、一義的に明確でないとみる余地もないではないが、本件差押処分の処分庁である被告が前記第二(事案の概要)三(争点に対する当事者の主張)2及び3で主張するところを考え合わせると、被差押債権は、本件差押処分時において現在し、金額的にも確定していて将来原告が支出する費用相当額を控除するなどして変動する余地のないものであることが明らかであって、それ以外の債権、例えば、将来発生する債権や将来債権額が減少する見込みのある債権を意味するとの疑いを差し挟む余地はない。

2  被差押債権の存否(争点3)

(一) 本件委任契約における委任事務は、①国際貨物の破産申立て、②国際貨物の営業の廃止とこれに伴う残務処理、③国際貨物の倒産に伴う混乱の防止、④国際貨物の債権の回収、⑤回収した資産から破産予納金等の破産申立て費用、弁護士報酬、右②ないし④に係る委任事務処理費用を確保すること、⑥回収した資産から、右⑤の費用及び報酬を除いて残金があれば、破産管財人にすべて引き渡すこと、⑦その他①ないし⑥に関する一切の事務処理である。

右委任事務の内容に照らすと、本件委任契約に基づいて国際貨物の破産の申立てが行われ、破産宣告を受けた上、破産管財人が選任された場合であって、かつ、本件口座の預り金から破産予納金、弁護士報酬及び委任事務処理費用を支出した残額が存在する場合、右残額について、原告は引渡義務を負うことになるが、それまでの間は、債権回収等によって得た金銭は原告が保管し使用すべきものであって、国際貨物はその引渡請求権を有しないものとするのが、契約当事者の意思であると解するのが相当である。

(二) 前記1のとおり、本件差押処分における被差押債権は、本件預入金全額(一四九四万八〇六二円)についての引渡請求権であり、しかもそれは、将来発生する債権ではなく、本件差押処分時に既に発生しているものであるとされているところ、右(一)のとおり、本件差押処分時においては、滞納者である国際貨物は右引渡請求権を有しないのであるから、本件差押処分は存在しない債権を被差押債権とするものである。また、仮に将来国際貨物に引渡請求権が発生する見込みがあったとしても、それは被差押債権とは別個の債権というほかないから、そのような債権を被差押債権とみることはできない。

(三) しかしながら、滞納国税に係る差押処分においては、民事執行手続における差押命令と同様(民事執行法一四五条二項)、債務者及び第三債務者を審尋することなく発令されることから明らかなように(国税徴収法六二条参照)、被差押債権の存否は発令の要件とされていないのであるから、差押処分において存在しない債権が被差押債権とされたとしても、これは結果的に本件差押処分が実効性を有しなかっただけのことであり、差押処分の違法理由となるものではないというべきである。

そうすると、被差押債権である本件債権が存在しない(したがって、国際貨物に帰属していない)からといって、本件差押処分が違法であるということはできない。

3  差押調書謄本の債務者への交付(争点4)

原告は、滞納者である国際貨物には、本件差押処分の差押調書謄本が交付されておらず、本件差押処分は国税徴収法五四条二号に違反する旨主張している。

しかし、前記第二(事案の概要)一(前提となる事実)3のとおり、原告自身は本件差押処分の差押通知書の送達を受けており、その時点で差押の効力が生じているのであって(同法六二条三項)、差押調書謄本を滞納者に交付すべきものとされているのは、差押の効力発生とは無関係に滞納者自身の法的利益を考慮したものであるから、本件においてこれが国際貨物に交付されていないとしても、それによって、原告が不利益を被るものではない。

そうすると、原告の右主張は、自己の法律上の利益に関係のない違法を理由として本件差押処分の取消しを求めるものであり、失当というべきである。

4  権利の濫用(争点5)

前記のとおり、本件差押処分は被差押債権が存在しないにもかかわらず発令されたものであるが、被告は、被差押債権が存在するとの法的見解の下に本件差押処分をしているのであるから、このことをとらえて権利の濫用に当たるとは評価できない。また、本件差押処分に当たり、被告又は甲府税務署長が、ことさらに弁護士としての原告の活動を妨害するなど、嫌がらせのためにする意思を有していたことを認めるに足りる証拠はないから、本件差押処分が権利の濫用であるということはできない。

さらに、本件差押処分が被差押債権の不存在によりいわば空振りに終わったものであることからすると、原告としては、直ちに、又は念のため国を被告とする被差押債権の不存在確認訴訟を経た上で、本件預入金を用いて受任事務を処理することが可能であったというべきであり、本件差押処分によって原告がその活動を法的に妨げられた事実があったということはできない。

三  結論

以上の次第で、本件差押処分が違法であるとの主張に基づく原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤山雅行 裁判官 谷口豊 杜下弘記)

<以下省略>

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